萌尽狼グ

同人音楽サークルkaguyadepth代表、萌尽狼(もえつきろ)の個人ブログ

レアなFM音源サウンドフォント「ESFM.SF2」を公開しました

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昨日、ESS Technology ES1938 Solo-1(ESFM)をThinkPad 390Xのライン出力からサンプリングした拙作サウンドフォント「ESFM.SF2」を現状有姿で公開しました。

https://www.dropbox.com/s/s7muqffctbty4ju/ESFM.SF2?dl=1

703.5MBもあるのでダウンロードする際は注意してください。

en.wikipedia.org

英語版Wikipediaによると、ESFMはネイティブモードとレガシーモードの2つの動作モードがあり、20ボイス、72オペレーターに強化されたOPL3互換クローンとのこと。ネイティブモードでは6つ以上の4オペレーターFMボイスをマッピングすることができ、生成される音色の複雑さが大幅に向上するそうです。

私がサンプリングしたのはおそらくこのネイティブモードのGM音色です。ESFMはベロシティの強弱によってオペレーター数が変化しているように聞こえました。ですからサウンドフォントではESFMを完全に再現できていません。またループポイントを設定せず、ただサウンドフォントにまとめただけのものです。

謎なのはドラムセットのProgram Change Numberが1じゃなくて64に設定してあるので、Studio OneではSoprano Saxの次に表示されてしまうこと。名前も「ESFM_Dr035」とBass Drum 2のNote Numberになっているので、ドラムセットを作るときの確認不足が原因ではないかと思うのですが、使用上特に問題はないのでこのままです。

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タイムスタンプから徹夜で作っていたことがわかる

そもそもこれはデータイーストシューティングゲーム“空牙シリーズ”をパロディーした『天牙 -MASTURBATION CODE- "FLIP HOLE"』(BOOTHで販売中)をKORG X50で制作する前にFM音源で作ろうと思って2008年8月に作成したものですが、当時の環境(Sound Blaster Live! Platinum Plus)では700MBもの巨大なサウンドフォントを扱うことはできずお蔵入りになっていたのです。

asialunar.booth.pm

Studio One 2 Professionalで問題なく使用できることを確認済みです。特にヘリコプターの効果音がやたらとリアルです。なぜこんなところに力を入れてしまったのか…。

本家OPL3には4オペレーターモードがあったものの、OPL4(MSXのMoonsoundとして知られる)はOPL3+AWM音源(GM)になってFM音源は鳴りを潜めてしまったので、ESFMでOPL系FM音源の進化のifを体感できるのではないでしょうか?

ちなみにESFMという呼称はiOS用バーチャルシンセサイザーの先駆け「Noise.io」でも使用されていますが、ESS TechnologyのESFMと同じものかは不明です。

blogs.itmedia.co.jp

なお、配布サイトである「OPL系FM音源」も13種類のソフト紹介やまとめ表を追加し、4連休中に大幅アップデートしましたのでぜひアクセスしてみてください。

kaguyadepth.jp

※写真はWikimedia Commonsより(パブリックドメイン)


ESFMデモ曲

デモ曲はES1938 Solo-1の実機演奏です。そのためサウンドフォントとは一部異なる場合があります。あらかじめご了承ください。(7/29に3曲追加しました)

In The Clouds(オリジナル)

ES1938 Solo-1(ESFM)+YM2608(OPNA)リズム音源+クラッシュシンバル。EDIA LABEL『えでぃあ すぺしゃる みゅ~じっく 萬両箱 ~活動満了記念~』(2006)、ASIA LUNAR『footprints 萌尽狼オリジナル曲ベスト』(2015)に収録した、トリガーハートエグゼリカ風の曲。

もう振り返らない(オリジナル)


ES1938 Solo-1(ESFM)のみ。サークルFMPSG『FMPSG006 -cyanic beat-』(2006)、『FMPSG Originals』(2015)に収録した、川井憲次風の曲。

CYANIC WINGS AGAIN(オリジナル)


ES1938 Solo-1(ESFM)のみ。ASIA LUNAR『エクステイリゼル』(2007)に収録した、高橋幸宏風の曲。

BOSS(1942: Joint Strike/日比野則彦


ES1938 Solo-1(ESFM)のみ。ASIA LUNAR『1925th』(2009)に収録した、カプコンシューティングゲームのアレンジ。実機は発音中にエクスプレッションの値を動かすと音色が化けるため、苦肉の策でホルンのロングトーンシンコペーションに分割アレンジしてクレッシェンドっぽく鳴らしました。


追記

 旭化成マイクロシステム(東京都渋谷区代々木1-24-10、蛭田史郎社長)は、米国ESSテクノロジー社からFM音源コア「ESFM」のライセンスを取得した。同社はPDCcdmaOneの携帯電話用ベースバンドICに同コアを内蔵し、今年秋にも商品化を計画している。
 携帯電話の着信メロディーやカラオケの高音質化に向けて、従来パソコンなどに使用されているESFMを携帯電話のベースバンドICに組み込む。ESFMは、GM(ジェネラルMIDI)対応で、楽器など128音色およびドラム音47音色の発音が可能。
 同時発音数は18で、それぞれ4個のオペレーターが使用でき、音色の拡張も可能。

https://www.dempa.co.jp/productnews/kobetu/000717/0717_01.htm

現・旭化成エレクトロニクスが2000年7月にESFM音源のライセンスを取得し、ESFM音源内蔵の携帯電話用プロセッサを製造していたらしいという情報が出てきました。

もともと情報家電向けであるOPL系FM音源の血脈はその後MA-7などの携帯電話向けFM音源チップへと受け継がれていきましたが、PCサウンドカード市場で繰り広げられたヤマハとESS Technologyのシェア争いが、まさか携帯電話市場でも繰り広げられていたとは!

FM音源の歴史については、まどちん氏(id:madscient)がまとめた「YMF825Board交流会#1」の資料が詳しくてわかりやすいです。
https://yamaha-webmusic.github.io/ymf825board/intro/note/fm_rekishi.pdf

ESFM音源はThinkPadのほか、富士通FMVなどのパソコンにも標準装備されていたようで、さらに携帯電話にも入っていたとなると、思った以上にユーザー数は多かったのかもしれませんね。