萌尽狼グ

同人音楽サークルkaguyadepth代表、萌尽狼(もえつきろ)の個人ブログ

令和のカシオトーンCT-S200/300の内蔵音源はAHL音源なのか?それとも新開発のAiX音源なのか?

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令和のカシオトーンCT-S200のメーカーサイトには搭載音源が何なのか書いてありません。
casio.jp

昨年春に新開発のAiX音源が登場し、AHL音源であることを誇張する必要がなくなったからかもしれませんが、CT-S200/300の内蔵音源はAHL音源なのか? それとも新開発のAiX音源なのか? 気になって夜も眠れないという方も多いのではないでしょうか?

本記事では独自調査によって、2016年秋以降の低価格帯キーボードに限ってダンスミュージックモードを搭載するという差別化戦略など、近年のカシオ電子楽器事業の動向が明らかになるとともに、CT-S200/300の内蔵音源が従来のAHL音源であると特定するに至るまでをまとめました。

AHL音源とは?

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カシオが開発したAHL(Acoustic & Highly-compressed Large-waveform)音源は、ZPI(Zygotech Polynomial Interpolation)音源の後継として、2003年秋モデルの電子ピアノシリーズ“Privia”1号機「PX-100」から採用されたHL(Highly-compressed Large-waveform)音源をベースに、よりリアルで豊かなアコースティックサウンドを実現した高品位な音源です。
2007年春モデルのハイグレードキーボード「CTK-5000」(61鍵)「WK-500」(76鍵)で初めて採用され、2007年秋モデルからすべてのラインナップ(ベーシックキーボード、光ナビゲーションキーボード、ハイグレードキーボード)で採用されました。最大同時発音数は48音でUSB端子を搭載しています(一部例外あり)。

私は2012夏モデルの光ナビゲーションキーボード「LK-215」を、2017年3月11日に店頭処分特価で購入したのをきっかけに、AHL音源の魅力に取り憑かれてしまいました。詳しくは旧サイトの記事をご覧ください。
asialunar.info

AiX音源とは?

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AiX(Acoustic Intelligent multi-eXpression)音源。AHL音源の後継として、2018年春モデルのベーシックキーボード「CT-X700」から採用されています。
なお、光ナビゲーションキーボードは価格帯によって音源方式が異なり、2018年夏モデルのLK-311と2019年夏モデルのLK-312はAHL音源となっています。

ラインナップ 機種名 発売日 発音数 音色数
ベーシックキーボード CT-X700 2018年2月22日 48音 600音色
ハイグレードキーボード CT-X5000 2018年4月13日 64音 800音色
ハイグレードキーボード CT-X3000 2018年4月13日 64音 800音色
光ナビゲーションキーボード LK-511 2018年8月28日 48音 600音色
光ナビゲーションキーボード LK-512 2019年8月30日 48音 600音色

近年カシオ電子楽器はインド楽器に力を入れている

新開発のAiX音源を搭載したハイグレードキーボードには、インディアンキーボードと銘打った「CT-X9000IN」「CT-X8000IN」という国内未発売モデルがあり、デモ曲がSoundCloudで公開されています。


同じ曲なのですが高価格帯の「CT-X9000IN」の方がグッと締まった音になっています。めちゃくちゃかっこいい曲なのでぜひ聴いてみてください。

news.mynavi.jp
マイナビニュースのAiX音源開発者インタビュー記事でも、音色開発で特にインド楽器に力を入れたことが取り上げられています。一部を引用します。

当然のことなのですが、良い音といっても千差万別で、一言ですむような明確な正解はないことに、改めて苦労を感じましたね。そのような中でも特に難しかったのは、インドや中国などの地域特有の音色(ハルモニウム、銅鑼など)の開発でした。

あまり馴染みのないアジア独特の楽器に対し、“その音や楽器に対して、どんなニュアンスにこだわっているのか?”を、現地の方々とコミュニケーションを密にしながら開発していくのは、かなり骨の折れる作業でした。要望を突き詰め、何度もダメだしをされながらも、お互いの想いやこだわりを共有することで、最終的には納得できる仕上がりにたどり着けたと思っています。

https://news.mynavi.jp/kikaku/20180326-601314/

音楽ナタリーのヒャダインインタビュー記事でも、のっけから「インドでバカ売れするんじゃないかな」という見出しですし、実際CT-S200/300に入っているリズムの77種類中14種類がインドという充実ぶりを見ても、近年のカシオ電子楽器事業がインド楽器に力を入れていることがよくわかります。
natalie.mu

CT-S200のデモ曲を聴いてみよう

先程のCASIO_Official SoundCloudではCT-S200のデモ曲も公開されています。

CT-S300購入前に手元にあるLK-215に入っている同じ曲と聴き比べてみましたが、音色はCT-S200の方がリアルだと感じ、違う音源が載っているのでは?と思いました。
CT-S200/300の内蔵音源は既存のAHL音源なのでしょうか? それとも新開発のAiX音源なのでしょうか?

取扱説明書ダウンロードを利用する

support.casio.jp
カシオのお客様サポートサイトにある取扱説明書ダウンロードで、CT-S200/300とLK-215の取扱説明書巻末にあるMIDIインプリメンテーションチャートを見比べてみたところ、CT-S200/300の音源はカットオフ、レゾナンス、アタック、リリースのコントロールチェンジを受信できることがわかりました。
ところが、詳細は別紙MIDIインプリメンテーション参照と書かれているのに、そのURLにアクセスしてもCT-S200/300用のMIDIインプリメンテーションPDFは見当たりません。CT-S200/300用のMIDIデータを作るうえで、音源リセットやリバーブタイプ変更などのシステムエクスクルーシブの仕様が知りたいのですが、これは困ったことになりました。

ダンスミュージックモードについて調べてみる

令和のカシオトーンCT-S200/300に搭載されているダンスミュージックモードは、数種類のループシーケンス(ドラム・ベース・シンセ2種)を自由に切り替えてDJできる目玉機能です。
プリセットパターン50種類(EDM35種類、ハウス10種類、ヒップホップ5種類)にダンスミュージックエフェクト4種類(LPF、HPF、フランジャー、ローファイ)をかけることができ、右手キーボードはプリセット400音色とダンスミュージックボイス12種類を切り替えて演奏することが可能です。なお、右手キーボードにはダンスミュージックエフェクトの効果はかかりません。
ダンスミュージックモードもCASIO_Official SoundCloudで試聴できます。

このダンスミュージックモード、調べてみるとベーシックキーボードが2011年夏モデルの「CTK-2200」から2016年秋モデルの「CTK-2550」にマイナーチェンジした際に、サンプリング機能を廃して実装されたものであることがわかりました。

機種名 発売時期 USB 備考
CTK-2550 2016年11月上旬
CTK-950K 2017年3月3日 ケーズデンキ限定モデル
CTK-3500 2017年3月11日 島村楽器限定モデル
LK-128 2017年9月下旬
LK-311 2018年8月28日
CT-S300 2019年9月27日 島村楽器限定モデル
CT-S200RD 2019年9月27日
CT-S200BK 2019年9月27日
CT-S200WE 2019年10月4日

AiX音源を搭載した高価格帯のベーシックキーボードや光ナビゲーションキーボードには従来どおりサンプリング機能が搭載されている一方でダンスミュージックモードは搭載されていないことから、令和のカシオトーンCT-S200/300の内蔵音源は従来のAHL音源であることが判明しました。
なおCT-S300は島村楽器限定モデルということもあり、カシオと島村楽器の初のコラボキーボード「CTK-3500」のマイナーチェンジモデルと言えるのかもしれません。
www.shimamura.co.jp

カシオでサンプリングといえば1985年発売の「SK-1」や1987年発売の「FZ-1」といった名機を彷彿とさせる伝統的な機能でしたが、マイク付属の光ナビゲーションキーボードならともかく、ベーシックキーボードで使いこなせた人はそう多くはなかったでしょう。その伝統を打ち破って実装されたダンスミュージックモードということを考えると、開発者の並々ならぬ熱意が感じられます。
ダンスミュージックモードは市場投入時期こそ早かったものの、ジョグダイヤルBPMをスムーズに変更できるようになったCT-S200/300でようやく日の目を見た機能のように思えます。任天堂ゲームキューブが基本性能そのままにリモコン操作のWiiになったことでヒット商品になったことと似てるので、CT-S200/300もヒット商品になる予感がしますね。
kblovers.jp
kblovers.jp

CTK-3500のMIDIインプリメンテーションがCT-S200/300でも使えた

再びカシオのお客様サポートサイトにある取扱説明書ダウンロードから、今度はCT-S200/300とCTK-3500の取扱説明書を見比べてみたところ、CT-S200/300はインドとエスニックが分かれているだけ音色リストが見事に一致しました。
また、CTK-3500のMIDIインプリメンテーションに記載されているシステムエクスクルーシブをCT-S300に送信して、リバーブタイプが切り替わることを確認できました。
https://support.casio.jp/pdf/008/CTK3500_midi_imple_JA.pdf

これによって上記リストの機種間で音源仕様が共通していることが明らかになりました。
ただし、CT-S200/300にはコンサートホールの臨場感が楽しめる「バーチャルホール機能」は付いていないため、そのシステムエクスクルーシブだけ対応していません。

無料アプリ「Chordana Play」対応機種にもヒントがあった

moetsukiro.hatenablog.com
前記事で取り上げた「Chordana Play」は、CT-S200/300とのUSB接続のほか、CTK-2550/3500とのステレオミニプラグ接続によるデータ送信(キーボードリンク)にも対応しています。
USB端子のないCTK-2550も「Chordana Play」に対応していたことに驚きましたが、ケーズデンキ限定モデルCTK-950Kはキーボードリンクを排除することでさらなるコストダウンを図ったものだなとも思いました。
「Chordana Play」対応機種はダンスミュージックモード搭載機種でもあるので、先に「Chordana Play」を知っていればそこから音源を特定することができたのかもしれません。

あとがき

ジョグダイヤル搭載で操作性が大幅に向上した令和のカシオトーンCT-S200/300ですが、2016年秋以降のベーシックキーボードや光ナビゲーションキーボードをお持ちの方は内蔵音源は同じなので、購入時に注意したほうがよいでしょう。